もしも、世界経済の電源が落ちたら?
「All-Stopper」シナリオの全貌
私たちが日々耳にする「金融危機」は、株価の暴落や企業の倒産といった「価値の変動」を指します。しかし、「THP-DEATH」シナリオが描くのは、それらとは全く次元の異なる事態です。これは、 金融システムという社会インフラそのものが、物理的に機能しなくなる「心停止」の状態 を意味します。お金の流れが完全に止まるとき、私たちの社会はどうなるのでしょうか。
THP-DEATHとは、アメリカの金融市場が持つ基盤機能(価格発見・清算・担保評価・決済)のすべてが、完全に凍結するシナリオのコードネームです。別名 「All-Stopper」 。その名の通り、あらゆる金融活動が停止します。これは、中央銀行や政府ですら介入する術を失う、前例のない事態です。
この「心停止」を引き起こす直接的な原因は、サイバー攻撃ではありません。より原始的で、しかし確実な 電力インフラ(変圧器・送電線網)の物理的な破壊 です。特に、金融の中枢であるニューヨークやシカゴが標的となります。
取引所のサーバー、決済システムのコンピューター、トレーダーの端末、そのすべてが同時に機能を失います。広範囲にわたる停電は、原因となった破壊箇所の特定すら困難にし、復旧への道を閉ざします。
このシナリオで特に脆弱性を抱えるのがシカゴです。その理由は3つあります。
シカゴには CME(シカゴ・マーカンタイル取引所) が存在します。ここは世界最大級のデリバティブ取引所であり、世界の金融機関が天文学的な規模の取引を行っています。CMEの停止は、世界経済の血液循環を止めるに等しいインパクトを持ちます。
シカゴが抱える社会的な脆弱性は、トランプ前大統領の在任中に決定的に深刻化しました。彼は、人種・経済・思想による社会の亀裂を意図的に利用し、支持者の結束を高める一方で、反対勢力への敵意を煽ったのです。
その象徴的な行動が、米国の「国防総省」を、その旧称である 『戦争省』(Department of War) と呼び変えたことです。彼はその理由を「我々は勝たなければならないからだ」と説明しました。これは、国外の敵だけでなく、国内の政治的対立者をも「勝利すべき敵」とみなす姿勢の表れです。このレトリックは、平和的な対話や妥協を否定し、社会の分断を「戦争」のレベルにまで引き上げました。
この「戦争」の論理は、移民排斥や人種差別といった感情と結びつき、一部の支持者を過激化させました。その結果、政府や社会に対する不満が、重要インフラへの破壊活動といった 物理的な暴力として発露する危険性 を著しく高めたのです。THP-DEATHは、このような政治的リーダーシップによって社会的脆弱性が極限まで高められた結果、現実味を帯びるシナリオと言えます。
当然ながら、こうしたトランプ氏の発言や行動は、シカゴの当局者や市民からの強い反発を招き、大規模な抗議デモへと発展しました。これにより、シカゴは政治的な対立の象徴的な場所となり、支持者と反対派の間の緊張は、物理的な衝突さえ起こりうるレベルにまで高まっています。
シカゴが属するイリノイ州は、長年の財政難に苦しんでいます。累積した債務は、警察・消防といった公共サービスの質を低下させ、大規模なインフラ破壊や暴動に対応する能力を著しく削いでいます。
THP-DEATHの本当の恐ろしさは、発生した瞬間に 「すべての資産が意味をなさなくなる」 点にあります。
銀行のATMから現金は引き出せず、クレジットカードも使えない。株や債券を売って現金化することも不可能。金や原油ですら、決済できなければただのモノになります。価値の交換手段そのものが失われるのです。
電力網の復旧は絶望的です。無数の変圧器の中から破壊された箇所を探し出す作業は困難を極め、その間、市場はもちろん、社会全体が麻痺し続けます。部分的な復旧も、新たな破壊によって妨害されるでしょう。これは単なる経済的損失ではなく、 社会秩序の崩壊 に直結します。
このシナリオに対して、事が起きてからの有効な対策は存在しません。唯一の道は、 発生確率を限りなくゼロに近づける努力 、すなわち「予防」です。
電力網のような重要インフラの防護と冗長性の確保、社会の分断を煽る言動の抑制、そして経済格差や差別といった根本的な問題への取り組み。THP-DEATHは、金融の問題であると同時に、現代社会が抱える脆弱性そのものを映し出す鏡です。これを避ける努力こそが、私たちにできる唯一の現実的な「対応策」と言えるでしょう。