用語集 ― ワルプルギス文書
プレリュードからエピローグまでに登場する代表的な用語をひとまとめにしました。本文では初出時のみ簡潔に触れ、掘り下げはここで参照してください。
A. 基本的な金融用語
- プライマリー・ディーラー(PD) ― 米財務省から直接、新発国債を購入する資格を持つ大手金融機関。入札制度の「問屋」役。
- プライマリー市場 ― 政府が新発債をPDに売り出す市場。映画の「試写会」に相当。
- セカンダリー市場 ― 既発債が投資家どうしで売買される市場。映画の「一般公開」に相当。
- テール ― 市場が予想した利回りと実際の落札利回りの差。大きいほど需要不足と信認喪失を示す。
- ビッド・トゥ・カバー比率(B/C) ― 総入札額÷売出額。2.0を下回ると需要が弱いサイン。
- レポ市場 ― 国債などを担保に短期資金を融通し合う「金融の配管」。詰まるとシステム全体が停止する。
- SOFR(担保付き翌日物調達金利) ― 米レポ市場の主要指標。急騰は深刻な資金逼迫を示す。
- CCP(清算機関)と証拠金 ― 取引の間に立つ機関。危機時に証拠金を積み増させ、最悪のタイミングで現金を吸い上げる。
- 流動性と支払い能力 ― 流動性は「即時に現金を調達できるか」、支払い能力は「資産が負債を上回るか」。ワルプルギスは流動性危機から始まり、やがて支払い能力の危機へ発展する。
B. 公的財政と制度
- 家計簿の誤謬 ― 「政府も家計と同じ」と捉える誤解。ワルプルギスの根底にある思考の罠。
- 財政支配 ― 中央銀行が政府赤字を直接ファイナンスする状態。中国の「金融の冬」が典型。
- 税(ドレイン機能) ― 国の資金源ではなく、通貨量を調整しインフレを抑える排水バルブ。
- ユーロ圏ドゥームループ ― 銀行が自国債を抱え、価格下落で資本が削られ、政府が救済できず……と悪循環が加速する構図。
- TARGET2 ― ユーロ圏の決済システム。残高の急拡大は資本流出のシグナル。
- BRRD(銀行回復・破綻処理指令) ― ベイルインを義務づけるEU規制。公的資本注入前に負債の8%以上を減損させる。
- TPI(伝達保護手段) ― ECBが無秩序な市場を抑えるために国債を買い支える裁量的なツール。
C. グローバル危機の概念
- ワルプルギス ― 2025年9月30日の米国債入札失敗を起点とする多層的世界危機のコードネーム。
- ドルデフォルト危機(DDC) ― 米国債市場の機能崩壊。事実上、ドルという基軸通貨の債務不履行。
- 伝播チャネル ― (1)各国の準備資産損失、(2)為替混乱、(3)ドル不足、(4)株式暴落の四経路。
- 新興国デフォルト波 ― ドル飢饉によって新興国の主権債務不履行が連鎖する現象。
- 資源ショック ― エネルギー・食料・素材の供給が断たれ、他分野の不足を増幅させる事態。
- E-MAD(経済版・相互確証破壊) ― 理性的な交渉を前提にした均衡。核やエネルギーでの恫喝が常態化すると崩壊する。
D. 中国固有の用語
- LGFV(地方政府融資平台) ― 中国の地方政府が簿外で資金調達する器。総額はおよそ57兆元と推計。
- デペッグ/一時的大幅切り下げ ― 管理相場制の放棄や人民元の急激な切り下げ。
- エネルギーの「はさみ危機」 ― 外貨流入の減少と戦略備蓄の枯渇が同時に進む状態。
- 産業信用の崩壊 ― 主力産業(EV等)の安全・情報開示・品質問題が国家信用に波及すること。
E. アメリカ固有の用語
- 地方債スタック ― 約4.2兆ドルの州・自治体債市場。恒久的な最後の貸し手が存在しない。
- VRDO(変動金利需要債) ― 金利が定期的に更新される地方債。再販売に失敗すると流動性危機が迫る。
- 二重担保詐欺 ― 同じ担保を複数の融資に再利用する違法行為。2025年9月のトリコロール破産で露呈。
F. 社会・倫理の論点
- 大量失業と移動 ― DDC後に予測される数千万人規模の失業と難民流出。
- 権威主義の好機 ― 危機を口実に権力を集中させ、市民の自由を削る動き。
- 生存の倫理 ― 食料・医療・エネルギーといった希少資源を誰にどう配分するかという道徳的な戦い。THPでは普遍的な罪の告発を軸に扱う。
G. 読者のための比喩
- 財布と蛇口 ― 家計の財布は汲み出せば空になりますが、政府の財布は通貨を生み出す蛇口そのもの。
- 試写会と映画館 ― プライマリー市場=試写会、セカンダリー市場=映画館の一般公開。
- 守護天使 ― 日銀が国債を無条件で引き受ける支え。米国には存在しない安全網。