2024–2025年 日本政局と参院選動向 – 総括レポート

はじめに: 政局の激変と非対称な対立構造

2024年後半から2025年にかけて、日本の政治は大きな転機を迎えました。長期政権を維持してきた自由民主党(自民党)は、岸田文雄首相下の支持率低迷と資金スキャンダルに直面し、2024年秋の衆議院総選挙で 15年ぶりの歴史的大敗 を喫します。自民・公明の連立与党は過半数を失い、石破茂氏を新総裁・首相にいただく少数与党政権が発足。石破政権は、野党との予算協議や大風呂敷の公約乱発に奔走しつつも、党内対立は激化の一途を辿っています。

一方、野党勢力は立憲民主党(CDP)を中心に勢いを増し、国民民主党(DPFP)、日本維新の会、さらに共産党(JCP)・れいわ新選組などが複雑に絡み合う構図が生まれました。2025年7月の参議院選挙を前に、 「保守陣営の分裂」と「左派・リベラル陣営の結束」 という非対称な構造が浮き彫りになっています。本レポートでは、この激動の政局を時系列で分析し、各政治勢力の内部構造と戦略、そして参院選に向けた展望を考察します。

1. 岸田政権の終焉と石破政権の多難な船出

岸田首相の退陣と石破茂政権の誕生

2024年夏、岸田文雄首相は自身の政治資金スキャンダル(「裏金事件」)で支持を失い、自民党総裁選への不出馬を表明。9月の総裁選では、党員人気を背景に 石破茂 元幹事長が勝利し、第102代首相に就任しました。石破氏は着任直後の10月9日に衆議院を解散、10月27日に総選挙を実施する電撃戦を打ち出します。これは「早期の信任獲得」を狙ったものでしたが、結果は自民党にとって極めて厳しいものとなりました。

2024年10月衆院選:「与党一強」の崩壊

第50回衆議院議員総選挙で、自民党は 191議席(改選前から67議席減) に留まり、公明党と合わせても過半数に届かない少数与党に転落。これは2009年以来の大敗であり、自民党単独で200議席を割るのは1955年の結党以来初という事態でした。一方、野党側は 立憲民主党が148議席(50議席増) と大躍進。国民民主党も28議席(21議席増)と伸長し、旧民主党勢力が12年ぶりに政権交代を射程に捉える勢いを取り戻しました。

「石破降ろし」と小泉進次郎待望論

少数与党に転落した石破政権は、党内から「石破では参院選は戦えない」との公然とした批判に晒されます。特に2025年3月、西田昌司参院議員が「新年度予算成立後に総裁選をやり直すべき」と訴えるなど、「石破降ろし」の動きが顕在化。その後継として、知名度と若さを併せ持つ 小泉進次郎 衆議院議員の名前が浮上します。実際に石破首相は2025年5月、コメ価格高騰を巡る不適切発言で辞任した農水相の後任に進次郎氏を抜擢。この人事は、党内融和と政権浮揚を狙った一手と見られましたが、党内力学を優先する姿勢は「現実離れした慢心」との批判も招きました。

2. 少数与党の綱渡り運営と「統治なき自民党」

予算成立の危機と野党との取引

衆院過半数割れの中、石破政権は予算案や法案の成立のため、野党との協力を余儀なくされます。2024年末の補正予算では、 国民民主党 が掲げる「年収103万円の壁の見直し」や、 日本維新の会 との「教育無償化の協議開始」を飲むことで、辛うじて両党の賛成を取り付けました。しかし、これは政権の弱体化を象徴する出来事でもありました。

「年収178万円案」と党内統治の崩壊

続く2025年度本予算案を巡り、与党は国民民主党の要求をさらに受け入れ、「年収の壁」を将来的に「178万円」まで引き上げることで合意。しかし、この幹事長レベルでの政治決着に対し、自民党の 宮沢洋一 税制調査会長が「釈然としない」と公然と異議を唱えます。党の政策決定プロセスを無視した合意への、事実上の造反でした。にもかかわらず、党執行部が宮沢氏を処分できなかったことは、 自民党の統治能力が著しく低下している ことを露呈させました。

3. 参院選に向けた公約の乱発と政策の一貫性崩壊

支持率低迷に喘ぐ石破政権は、参院選を前に有権者の歓心を買うための公約を乱発します。中でも 「2040年までに名目GDP1000兆円、国民平均所得5割増」 という目標は、財源や工程が不明確な「大風呂敷」だと批判されました。このような場当たり的で非現実的な公約の乱発は、自民党がかつて掲げた財政規律や成長戦略との整合性を失わせ、政策の一貫性の崩壊を物語っています。農村や経済界といった伝統的な支持基盤も揺らいでおり、党内路線も分裂状態にあるのが実情です。

4. 主要政党・勢力の動向と内部構造(2025年前半)

【既存組織】

財務省:衰えぬ「影の支配者」

政権が誰に代わろうと、予算編成権を握る財務省の影響力は絶大です。石破政権の財政出動的な公約にも、裏では財務省が財政規律の観点からブレーキをかけていると見られます。「財務省に逆らった政権は短命」というジンクスは今なお健在であり、日本政治の“見えざる手”として君臨し続けています。


【少数与党】

自民党:統治能力を失った第一党

党内は石破首相を支持する勢力と、茂木幹事長ら旧安倍派を中心とする主流派との対立が潜在化。ポスト石破を巡る権力闘争も激しく、党としてのまとまりを完全に欠いています。伝統的支持層の離反も深刻で、政策も場当たり的。「年収の壁」問題のように、場当たり的な野党との取引で党内プロセスを無視した結果、税調会長が公然と反旗を翻しても処分すらできないなど、 政権担当能力そのものが問われるガバナンス不全 が極まっています。「長期政権の弛緩」は、もはや統治能力の喪失というレベルに達しています。

公明党:連立における存在意義の揺らぎ

自民党と連立を組む公明党は、「平和と福祉の党」を掲げ、連立内で自民党の急進的な政策に対する「ブレーキ役」を自任してきました。しかし、長期にわたる連立の結果、その独自性は薄れ、重要法案で自民党の方針を追認することが常態化。「下駄の雪」と揶揄されることも少なくありません。支持母体である創価学会の高齢化と組織力の低下も課題であり、選挙での集票力もかつてほど盤石ではありません。特に都市部では自民党との選挙協力に綻びも見られ、連立与党としての存在意義が根本から問われています。


【主要野党】

【立憲民主党と国民民主党について】
この2党は共に旧民主党(1998~2016年)を源流としていますが、分裂後の路線対立を経て、現在のあり様は全く異なっています。以下ではそれぞれの特徴と現状を解説します。

立憲民主党:「悪夢」を賛美する財務省の服従者

野田佳彦元首相を代表に据え、政権担当能力をアピールしますが、その実態は国民から厳しい目を向けられています。党の政策はリベラル・左派色が強く、「紙の保険証の復活」といった発言に象徴されるように、未来志志向の建設的提案に乏しいと批判されています。党内には「民主党政権は悪夢ではなかった」と過去を正当化する空気が強く、その失敗の責任を国民民主党に転嫁するような言動も見られます。特に、党全体がおしなべて緊縮財政を志向する 「財務省財政の賛辞及び服従者」 と見なされており、人数は多くとも具体的な対案を示せない「無能集団」という厳しい評価が絶えません。

国民民主党:「手取りを増やす」現実路線と課題

是々非々の実務路線で存在感を高め、衆院選では「手取りを増やす」という現実的なスローガンで支持を拡大しました。「ガソリン税の廃止」など、与党の抵抗で実現には至らないものの、その政策提案は国民の支持を得ています。しかし、2025年に入り、国民の関心が低い「夫婦別姓」を巡る動きや、過去に物議を醸した人物を参院選比例名簿に登載するなど、 旧来の支持層である保守層の離反を招きかねない動き が目立ち、党のアイデンティティが揺らいでいます。

日本維新の会:「大阪万博」という爆弾

大阪を地盤とする保守系の第三極。自民党とは「身を切る改革」で一線を画し、全国政党化を目指しますが、その足元を揺るがしているのが 2025年大阪・関西万博 です。2025年4月13日に開幕したものの、建設費は当初想定の倍近い2,350億円に膨れ上がり、海外パビリオンの建設も大幅に遅れ、来場者数も想定を大きく下回るなど、厳しい船出となっています。これに対し、 推進してきた維新も、大阪府・市も、そして国も、最終的な赤字の責任の所在を明確にしない無責任体制 を表明しており、この問題が党の最大の足かせとなっています。


【その他の野党勢力】

れいわ新選組:ポピュリズムの光と影

消費税廃止など急進的な反緊縮財政を掲げ、既存政治への不満層の受け皿として成長。しかし、その政策の実現可能性には疑問の声も多く、熱狂的なブームは一時期より落ち着いたとの見方もあります。参院選でも一定のコアな支持層に支えられるとみられますが、野党の主導権を握るには至っていません。

日本共産党:矛盾を抱える古参政党

公安調査庁の調査対象というレッテルを貼られながらも、議会活動を続け一定の固定票を持つ存在。野党共闘においては、その組織力が一人区などで候補者調整の鍵を握る一方、そのイデオロギーが連携の障壁となるジレンマを抱えています。

保守系小政党(日本保守党・参政党):躍進の限界

自民党に不満を持つ保守層の受け皿として台頭。しかし、主張に陰謀論的な色彩が強いとの批判や、指導者の個性があまりに強いために勢力拡大や他党との連携には限界が見られます。保守票を細分化させ、結果的に自民党の足を引っ張る存在になる可能性もあります。

5. 保守の分裂 vs 左派の結束 – 非対称な構造と参院選への示唆

現在の政局は、 保守陣営が内紛と理念の細分化で分裂 しているのに対し、 左派・リベラル陣営は「打倒自民」という共通目標で緩やかに結束 している、という非対称な構造が特徴です。保守分裂は自民党の弱体化が招いた自己分解であり、左派結束は共通の敵に対する外的団結と言えます。この構図は、特に候補者を一人に絞りやすい参院選の一人区で、野党側に有利に働く可能性があります。

結論: 参院選展望と日本政治のゆくえ

2025年7月の参議院選挙は、この複雑化した政局構造の下で行われる、日本の針路を決定づける決戦となります。石破政権が逆風の中で戦う一方、野党は勢いを増しており、「一度自民党に政権を委ねるべきか」という有権者の意識変化も無視できません。参院選の結果次第では、石破首相退陣と党の立て直し、あるいは野党勝利による解散総選挙など、さらなる政界再編が起こることは必至です。長期政権への不満が頂点に達しつつある中、各党が有権者の信頼を勝ち取れるか。その答えが、間もなく示されます。