プレリュード ― お金の配管

更新日: 2025-09-30 · 用語集

「ドルの死」と、それを見えなくする二つの思い込み

ワルプルギスの警告がなぜ届きにくいのか。その型を静かにほどいていきましょう。

1. 多くの人を縛る「家計簿で国を測る」勘違い

「国の借金はとてつもなく大きい」「税金こそが国家の収入源だ」。そんなふうに、国の財政を家計簿になぞらえて語る声を耳にします。ここでは便宜上、この考え方を 「家計簿財政」 と呼びましょう。

けれども、それは本質的な取り違えです。国は自分の通貨を発行できますが、個人や家庭はそうはいきません。この決定的な違いを見落とすと、「緊縮しなければ」「ベルトを締めなければ」と政策の舵を誤りがちになります。前のページでも触れたように、税はむしろ国債という借用書を落ち着かせ、景気を整えるためのバルブとして働きます。

つまり「家計簿財政」という視点こそ、現代のお金の仕組み(フィアット制)を理解するうえで最初の壁になっているのです。

2. 「ユーロの中身はドル」という驚きの事実

ユーロは独立した欧州の通貨に見えます。けれども金融の舞台裏では、実はアメリカドルに深く頼り切っています。国際金融の決済はドルを基軸に行われ、欧州の銀行も日常的に莫大なドル資金を回しています。

だからこそドルの信用が揺らぎ、アメリカの金融が止まれば、ユーロも無傷ではいられません。 ドルの運命とユーロの運命は、見えない糸で絡み合っている のです。ワルプルギスが「欧州を巻き込む世界的危機」と語られる理由はここにあります。

3. ワルプルギスが告げる「ドルの死」とは

「米国債の一次市場が止まる」――なぜこの出来事が、大きな分岐点になるのでしょうか。それは、その瞬間がすなわち 「ドルの死」 を意味するからです。つまり、 「ドルはいつまでも安全だ」という神話が崩れ去る 瞬間なのです。

米国債は世界で最も安全な資産(リスクフリー)だと信じられてきました。だから各国の政府も投資家もドルを手に入れ、ドルは基軸通貨としての地位を保ってきたのです。

ところが、アメリカが自国で資金(国債)を調達できなくなる事態は、その信頼の根っこを崩します。「絶対に安全だと思っていたものが、実はそうではなかった」と世界が悟る。これこそがワルプルギスの真の怖さなのです。

警告が届かないのはなぜ? 二つの強い「正常性バイアス」

これほど深刻なリスクなのに、どうして多くの人が耳を貸してくれないのか。その理由は、思考を縛る二つの強力な 「正常性バイアス(思い込み)」 にあります。

  1. ドル神話のバイアス: 「アメリカが破綻するはずがない」「ドルが無価値になるはずがない」という長年の刷り込みが、目の前の危機を「そんなことは起こらない」と片づけさせてしまいます。
  2. 家計簿財政のバイアス: 「国の財政も家計と同じ」という誤った常識が、通貨の信用という本質的なリスクを見えなくしてしまいます。

これら二つのバイアスはあまりに強く、真剣に取り合ってもらえません。私たち自身も無力さを感じますし、THP という取り組みも、まだ十分な答えを示せていないのが現状です。

この文書は、迫り来る危機の輪郭と、なぜその警告が届きにくいのかを静かに理解していただくための手引きです。